聴覚障害者のビレイについて

私のような聴覚障害者がロープクライミングに参加し、ビレイするにあたって一度まとめていたのですが、年が経ち、自分も経験を積むことで少々洗練されたように思うので更新します。

フォールに対する考え方

 まずフォールについてロングフォールを受け入れる考えを持つ必要があります。
 「1センチでも落ちない、落とさない」から「グランドフォールしなければ多少のロングフォールはあり」へ。
 ロングフォールを受け入れるためには落ち方を考える必要があります。ただ落ちるのではなく落ちるのをコントロールするようにします。
 3~5メートルぐらい落ちたときに無防備でいるとやはりケガしますので体勢を整えつつ足から岩に着地出来るようにコントロールしなければなりません。
 難しいルートなほど着地に失敗して足首を腫らした経験は何度もありますので、やはり練習と経験と理論を確立する必要があるでしょう。

テンション

 ビレイヤーを見てヘルプを求めてください。
 それが出来ないような悪いホールドやムーブの場合、ビレイヤーから見てムーブの動きが悪い、固まってる、ミシンを踏んでいるなどで判断し軽く張る可能性はあります。
 たるみをなくすことでロングフォールはしますが、不用意なグランドフォールは避けられます。ただしヌンチャクとグランドの位置関係によっては強めに張ることもあり得ます。

登ります

 テンション状態からは声かけなしで自由に登ってください。ロープが緩んだことで再開したと判断します。
 ただし、ロープやヌンチャクを掴んでいる場合はこの限りではありません。

降ろしてください

 人差し指で下を上下に指すジェスチャーで通しています。

少し降ろして

 テンション状態からの場合は「少し(親指と人差し指を当てて)」「下ろしてください(人差し指で下を上下に指す)」で少し降りて、希望の位置になったら手のひらをビレイヤーに見せて止めてください。

終了点が見えないようなルートの場合

 一度終了点にロープをセット後、対のロープをたぐりながらビレイヤーが見えるところまで降りて合図します。
 危険ならヌンチャクにムーンヒストした方がよいと思いますが、最後は歩き程度の簡単なケースが多いので今までのところナシでした。

上記の他に

 ・セルフかけてレスト中にプリクリしたいときはロープを引っ張ってください。ついでに人差し指で次のヌンチャクを指すと分かりやすいです。
 ・長いレストから再開したいときに、ビレイヤーがよそ見しているときはロープを引っ張ってください。
 ・セルフなしレストで長時間テンションのときにビレイヤーがよそ見していたらロープを叩いてください。振動でわかります。

ビレイデバイス

 それでも聴覚障害者がビレイするときはオートブレーキ機能付のビレイデバイスに頼ったほうがより安全でしょう。
グリグリなど。自分は軽い、マルチピッチに持っていける点からメガジュルを愛用しています。

自分を守る

 登っていることに夢中になって気づかずに危険な行為をしてしまう可能性は誰にもあります。
 ロープをくくってしまう、ルートから外れてしまう、クリップし忘れ、逆クリップ、Zクリップなど。会話による注意が出来ない以上ロープを引っ張ったり、それ以上登るのを止めるほかは何も出来ません。そのためにも自分で冷静に自分の状態を正確に把握する必要があります。

サイレントビレイについて

最近、質問されたので備忘録として。

> ①登っている最中に、
> 「テンション」、「もう少し緩めて」などと言う場面は、クライマー間では日常かと思います。
> それに関しては、顔で合図でしょうか?

自分が登る場合、発音は正しくありませんが出せますので「テンション-」と叫んでます。
聞き取れない人だと声がしただけでテンションということにもしてあります(つまりシャウトが出来ません^_^;)

私がビレイしてるときは、始めた頃はクビを振るなどの合図を決めてましたが、最近はいらないんじゃないかと思うようになりました。
クライムダウン、テンパってる、体がガチガチ、ミシン踏んでるなどが分かれば張り気味にして心の準備しておきます。
あんまり落ちたくないときは、こっちをちら見すれば張っとくみたいな感じです。
余裕があって何らかの理由でテンションが欲しい場合はやっぱりちら見ですこの方法はテラスで見えなくなるケースには使えません…このときはロープの張り具合で判断するしかないです。
登ってる最中にもう少し緩めてというリクエストは難しいので諦めてます。
なのでハングドッグのときに多めに降ろしてもらって取り付く感じですかね。
あるいは大きめに落ちてもグランドしなきゃいいからと言い聞かせてガチガチに張らせないようにしてます。

> ②終了点で結び替えか懸垂かをパートナーに伝える方法は、どのようにしておりますか?

フェイスやクラックではパートナーと交互に登るため、なければ必ず終了点を作って降りますのでそのような問題に面したことはないです。
なので回収便でこのルートは終了点ないから、結び替えして降りますね、セルフビレイが取れたらロープくださいと言っておいて登ります。
終了点が見えるルートは身振りでロープを引っ張って「もっとよこせ」とリクエストします。→ビレイヤーが自己判断でビレイ解除
テラスなどで見えないときはしつこくロープをぐいぐい引っ張って結び替えに必要な長さを確保します。ビレイ解除するかしないかはビレイヤーの判断に任せます。
逆の場合(私がビレイヤー)も同じです。

追記
ビレイして、張って、降ろして、止めては身振りで何とかなります。

まだまだ改善の余地はありそうだし考えなければならない点もある。
ビレイ解除されたまま見えるところまでロープをたぐって降りなければならないリスキーなシーンもあるし…
実験台につきあってくれるパートナーに感謝w

聴覚障害者のスポーツ参加について

先日、Deaf Athlete Japanのお手伝いで高杉奈緒子さんの取材という名目で鈴鹿サーキットまで行ってきました。

それぞれのリンクを見てもらえれば分かるかと思いますが、高杉奈緒子さんは聴覚障害の持ち主でハンディキャップを背負ったままロードレースに参加し続け、現在は全日本ロードレース選手権に参戦するまでになった方です。

私も聴覚障害を背負いながら20代前半をTZ125やRS125Rで関東選手権や菅生選手権を転戦したことがありますが、才能がなかったのとバイクブームの終わりかけ?でエントリー多数で予選落ちがほとんどでパッとしないまま身を引きました。

当時の私を取り巻く環境はそれは厳しいものでした。

彼女も同様な問題を抱えていたかと思いますが、ひとつひとつていねいにクリアしていったので現在があるのだと見ています。
愛嬌の良さ、ファンサービスを事欠かさないマメさ、チームやスタッフへのケアも忘れないキビキビさ。
何よりも長年、コツコツと人間関係、レース環境、スポンサー、チームとの関係を築き上げていった彼女の努力の賜物かと思います。

私はロードレースを離れて数年が経ち、クライミングに参加するようになりましたが以前と変わらず問題を抱えています。
つまり成長してない(^_^;

ひとつ言えることは。

助けてもらうことばかりでなく健常者をも助けてあげられるだけの実力を身につける

身につけると一言で言えば簡単ですが、実際はそれだけのスキルを身につけるのに才能のありなしに関わらず長年の努力が必要だと思います。
彼女を例にあげると、自分がサーキットを走ることの価値をよく知ってると思います。
単純に「自分がレースに出たい。だからおまえらバイクとか整備とかよろしく」では誰もついてきません。
自分がレースに出るためにはどうすればいいのか。自分がレースに出ることで誰にメリットがあるか、などを彼女はよく理解し、その行動が日頃のファンサービスに現れていると思います。

支援金を集めて「集まらないし、他のことやりたいからやめますね」な聴覚障害者を知っているので比較しても彼女は自分の影響力をよく理解し、足りないならどうすればいいかをよく考え、それを行動していると思います。

楽しくマイペースでやりたいだけだったら、何も好きこのんで聴覚障害者のいない世界に飛び込む必要はありません。
聴覚障害者だけで理解し合える人たちだけで身の丈に合ったスポーツを楽しめばいいんです。
デフリンピックもありますし、ろうあスポーツ大会もあります。世界選手権もあるみたいです。
それに参加することが悪いとは言いませんが、果たして社会に貢献してるかと言えば私的には疑問符がつきます。

とりとめもなくなってしまいましたが、ひとつ言えることは

「彼女は才能や環境に恵まれただけのライダーではない。彼女がコツコツと積み重ねていった努力の結果が今になって形として現れている」